| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-117  (Poster presentation)

葉面吸収水の樹体バイオマスへのアロケーション
Allocation of foliar uptake water to tree biomass

*河合清定, 香川聡(森林総合研究所)
*Kiyosada KAWAI, Akira KAGAWA(FFPRI)

葉表面から植物体に水が供給される現象は葉面水吸収と呼ばれ,根に代わる給水経路として近年盛んに研究が行われている.葉から吸収された水分子の酸素と水素の一部は,光合成同化産物に取り込まれ,師部を通じて転流されることがわかっている.しかし,転流された光合成同化産物の酸素と水素が各器官にどのように分配され,バイオマスとして固定されるかについてはわかっていない.

本研究では,二重重水ラベリング法(HDO, H218O)を用い,根から吸収された水と葉から吸収された水それぞれが樹体バイオマスにどのように固定されるかを明らかにすることを目的とした.スギの幼木3個体を対象に,枝葉が活発に伸長している2019年7月に,酸素安定同位体比が高い重水を葉に,水素安定同位体比が高い重水を根に与え,葉,枝木部,細根における有機物の酸素および水素安定同位体比を継時的に測定した.

ラベリング直後の結果では,酸素安定同位体比は葉,枝木部,細根の順に高く,水素安定同位体比は逆の傾向を示した.ここから,新たに作られた葉の有機物は葉面吸収水由来の酸素・水素の割合が高く,根は根吸収水由来の酸素・水素の割合が高く,枝木部は中間の割合を示すことがわかった(Kagawa 2020 bioRχiv).本発表では,枝の伸長成長が停止した冬(2019年12月と2020年1月)および翌年の冬(2020年12月)の結果を紹介し,葉面吸収水と根吸収水がバイオマス成長に果たす役割や,酸素・水素のキャリーオーバー効果について議論する予定である.


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