| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-120 (Poster presentation)
温帯落葉果樹は、貯蔵器官に蓄積した炭素を春季新生器官の初期成長に利用する。しかし、前年のどの時期に同化された炭素が翌春の初期成長に利用されやすいのかは不明であった。昨年度の発表で、生育期間の主に前半の時期別に13CO2をリンゴ幼木全体にばく露する実験を行い、新梢の成長が旺盛な時期に同化された13Cが生育終期に多く残存し、この処理区の樹において翌春の新生器官中の13C濃度が高い傾向が認められたことを報告した。本発表では、同ばく露実験の翌年において新生器官(特に花)中に存在する前年同化13Cの濃度が成長に応じてどのように変化するのか調査した結果を報告する。
生育期間の主に前半の時期別にリンゴ(ふじ)3年生幼木を13CO2(15 atom% 13C)にばく露し、その後越冬した一部の個体を対象に、花又は果実試料を開花6、9、29、57、99及び192日後に、葉及び当年枝試料を開花6日後に、前年枝試料を発芽前に採取し、これらの試料中の13C濃度を測定した。
ばく露実験の翌年に採取した花及び果実中の13C濃度は、日を経るにしたがって指数関数的に減少し、開花99日後以降には天然レベルに近づいた。花及び果実中の13Cの平均滞留時間は、前年のばく露時期に関わらず同程度であった。これらの結果は、貯蔵器官中の炭素が花の形成時に利用されるが、新しく展開した葉からの同化炭素がその後の果実の成長に寄与することを示唆している。一方、開花期に採取した葉及び当年枝中の13C濃度は、花とは異なり、発芽前の前年枝中の13C濃度と有意な関係が認められなかった。このように、開花期にはすでに葉の同化炭素が新梢に転流され、新しい葉及び当年枝の成長に利用されていたと考えられる。
(本発表は、青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。)