| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-125 (Poster presentation)
気候変動などの環境変化に対する生物の分布移動は、生物種の機能特性による幅広い移動速度の違いと、移動に際しての競争等の相互作用による影響から、複雑な反応を示すと考えられる。本研究は日本の森林樹木種を対象に、その稚樹と母樹の分布における気温傾度上の差異(稚樹母樹差)を過去の分布移動指標とすることで、種ごとの移動性に対する機能特性の影響と、森林帯を形成する機能タイプ間での比較に基づく相互作用の影響を明らかにすることを目的とした。
樹木種の分布データは環境省の第6-7回自然環境保全基礎調査の植生調査データを使用した。高木層・亜高木層の出現を母樹、低木層・草本層の出現を稚樹として集計し、メッシュ農業気象データ(農研機構)の気温データと合わせる事で稚樹と母樹の気温差を算出した。なおこの稚樹母樹差は、それぞれ分布の平均気温・高温限界・低温限界の3種類で算出した。また移動・競争能力に関連する機能特性として種子重、生活形などを検討した。総当たりGLM解析を用いて機能特性と稚樹母樹差との関係を解析し、さらにpermutation testを用いて同じ温度帯における機能タイプ間の稚樹母樹差すなわち分布移動の違いを明らかにした。
302種を解析した結果、稚樹が母樹よりも寒い領域に分布がずれる傾向があり、さらに種特性による違いが見られた。種子の軽い木性つる植物では低温限界での稚樹の寒冷方向への移動が顕著な一方で、種子の重い常緑広葉樹では高温限界において稚樹の温暖方向への移動という逆パターンが示された。また常緑広葉樹の温暖シフトは、亜熱帯種の寒冷シフトと同所的に南西諸島で起こり、森林帯の均質化が部分的に生じていた。このように、稚樹(更新場所)の分布が全般的にはより寒冷地へ移動する一方で、機能特性や相互作用、地理的特徴によっては逆向きの移動も生じうるため、環境変化に対する生物の分布移動を理解・予測するためには、群集レベルでの検証が欠かせない。