| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-128 (Poster presentation)
再生可能エネルギーの一つである地熱発電は導入促進が図られているが,地熱発電の冷却塔から排出される硫化水素が植生に与える影響については知見が少なく,そのモニタリング手法を検討することは重要である.無人航空機(UAV)によるリモートセンシングは,時間・空間・スペクトル分解能を選択できること,詳細な植生高や多方向からの観測結果が得られることから,精密農業における利用が広まりつつある.マルチスペクトルカメラ(MC)搭載UAVで得た画像を用いることで,葉面積指数やクロロフィル量の指標となる植生指数を計算できるため,葉群の活力を定量的に観測できる.本研究では,MC搭載UAVを用いて,硫気孔の周辺に生育する樹木の植生指数を樹冠レベルで明らかにした.
MC搭載UAVを用いて,硫気孔東側の森林200 m×100 mの範囲を2020年6〜10月に月一回ずつ観測し,植生指数の一つであるNDREのオルソモザイク(解像度:5cm)を作成した.高木層に達した高木性樹種の樹冠ごとにNDREを集計し,硫気孔からの距離に応じたNDREの変化の有無を検証した.調査範囲の北辺に沿う4地点にロガーを設置し,硫化水素濃度を測定した.
硫化水素濃度は概ね調査範囲の西側で高く,キタゴヨウは西側に,ブナは東側に多く出現した.種ごとのNDRE中央値は葉群の活力のフェノロジカルな変化を反映し,開葉の早いブナは6月から最大を示した一方,ミズナラやホオノキ,ミズメは7月に最大となった.また,キタゴヨウやブナ,ホオノキでは硫気孔に近いほどNDREが有意に低く,調査期間を通してその傾向が継続した.硫気孔から噴出する硫化水素の葉群に対する影響を検出できたと考えられ,MC搭載UAVを用いることで,広範囲の定量・効率的モニタリングが実現可能であると示唆された.
本研究はNEDO委託業務による研究開発の一環として実施したものである.