| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-130 (Poster presentation)
植生の組成とその分布は,現在の環境と過去の地史的な発達史の2つの面からの解明していく必要がある.そこで,本研究では, 多様な高山植生が成立する北アルプス後立山連峰北部において高山荒原の分布型組成を明らかにし,高山荒原;コマクサ-イワツメクサクラスの成立要因を考察した.
高山荒原の中でチシマクモマグサ-ミヤマタネツケバナ群団(SC)は周北極要素,タカネスミレ-ヒメイワタデ群団(VP)は東北アジア要素,クモマミミナグサ-コバノツメクサ群団(CM)は東アジア要素が多かった.イワツメクサ群団(Sn)の分布型組成は植生単位ごとに異なり,低山要素,太平洋要素,周北極要素に特徴づけられた.
LGM (約2万年前)以降, 約2万-1万8千年前の最寒冷期以降,気温は上昇し,7.5千年前-6.5千前の温暖期を経て,次第に冷涼化した.気温上昇は植生の垂直分布を上げるが、1.2万年前から増え始めた積雪量の変化も分布に影響したと考えられる.花粉分析から, 本調査地では,標高2200m以上の地点は,最暖期であっても樹林帯に覆われなかったと推察され,高山荒原は最暖期でも植生を維持したと考えられる. SCは本州からカムチャツカ方面に分布する北方型で,南限となる本調査地では雪田周辺に取り残されてきたと推察される.VPは本州からサハリン、東シベリア方面に分布し,本調査地のコマクサ-タカネスミレ群集は今も、高山ツンドラに近い環境に成立している.Snは,多雪環境や低山域に由来する植物に特徴づけられることから,本州の高山環境に適応して,固有に成立したと考えられる.CMのクモマミミナグサ‐コバノツメクサ群集は現在の垂直分布幅が広く,低標高域でも樹林化の進まない蛇紋岩地がレフュージアとなり維持されてきたと考えられる.
今日の高山荒原の植生変遷は最終氷期以降、気温の変化や積雪量に対して、分布型組成の意味する周北極型や東北アジア型の異なる植生の移動の違いを経て現在に至っていることが理解できると考えた.