| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-132 (Poster presentation)
オカオグルマTephroseris integrifolia subsp. kirilowii(キク科)は本州~琉球、国外では朝鮮半島・台湾・中国・モンゴル・ロシア極東地方に分布する多年草で、万鮮要素(小泉,1931)の植物とされ、野焼きや刈取りで維持される二次草原に生育する。
埼玉県内における現存は西部の丘陵地数か所のみで、その立地はいずれも棚田畦畔の狭い草地である。迅速図や史料によれば、明治初期~昭和30年代頃まで県内に秣場や茅場が広くみられたことが読み取れるものの、本種の生育適地となり得るまとまった草原は生業の変化や開発等に伴いほとんど消失している。畦畔の草地は本種の代償適地となっていることが想定される一方で、畦畔自体は広く存在する立地でありながら、本種の現存が局限している要因は明らかでない。
本研究ではオカオグルマの生育する棚田畦畔の特性を明らかにし、保全対策検討に資する目的で、生活史・繁殖生態、立地環境・管理状況、群落動態の側面から検討を行った。調査は比企郡の2か所において、2019年4月~2020年4月に個体群調査および植物社会学的植生調査を実施した。
その結果、本種の生活型は偽ロゼット型で休眠期をもたないことが明らかになり、被陰に対し脆弱であることが示唆された。また、自生地畦畔の植分はシバ群団・シバスゲオーダーの種で特徴づけられチガヤ群落にまとめられたが、畦畔平坦面では個体分布がごく少なく、畦畔斜面と比較してスズメノテッポウ群団やオオバコオーダーの種の常在度・被度が高い傾向にあり、水田管理に伴う踏圧や畔塗の影響、匍匐型の生活型をもつ種群との競合影響等が示唆された。年3回の除草管理が行われている畦畔ではラメット数の増加が確認され、年2回の畦畔と比較して年間を通じ植生高が低いこと、不定芽から分蘖する特性が繁殖に寄与したことが示唆された。
本発表では、上記の点や管理履歴等を踏まえ、オカオグルマの生育適地となる条件や保全方策等について、詳細な考察を加える予定である。