| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-140 (Poster presentation)
自然界における生物の種数や種組成、分布パターンは標高や地形、種間相互作用などの様々な要因から影響を受けて形成される。このため生物群集の構造と多様性に影響を与える要因(多様性形成要因)の相対的な貢献度を明らかにすることは、生態学の長い間のテーマとなってきた。多様性形成要因の相対的重要性にはスケール依存性があり、広いスケールでは気候などの環境要因が強く働く一方、狭いスケールでは種間相互作用が重要な役割を果たすことが知られている。その一方で、両者が複合的に働くと考えられる中程度(メソ)スケールの多様性の形成にどのような要因が寄与しているのかについては、研究が少ないのが現状である。そこで本研究では奈良県の春日山原始林の木本植物を対象に約1平方キロの範囲の種組成と多様性がどのような要因によって決まるのかを調査した。研究では約1平方キロの範囲内に30個の小区画(約0.1ha)を設置し、小区画の標高、微地形(斜面方位と角度)、撹乱強度(開空度)が種多様性と種組成にどのように影響するのかを解析した。解析の結果、種組成は標高に沿って変化する一方で、種の多様性は標高と斜面角度の双方が影響していることが明らかになった。また、その影響の現れ方は高木種と低木種で異なっており、低木種では有意な種数の変化は見られなかった。さらに種間の排他的な分布の程度を表すCスコアを同属種間で計算したところ、いずれの属においても有意な排他的分布は見られず、近縁種が小区画のレベルでも頻繁に共存していることが明らかになった。このことは近縁種間の競争的な相互作用は森林群集の分布パターンの形成にはあまり大きな影響を与えていないことを示唆している。以上の結果から、メソスケールの森林の種多様性パターンは主に標高と微地形が影響しており、その影響の仕方は高木と低木で異なると考えられた。