| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-141 (Poster presentation)
岩上・岩隙植物群落は,岩場に特有の植物が見られ希少植物が少なくないことから,生態学的にも生物多様性保全上でも重要である。本研究では,鹿児島県伊佐市大口(北緯32度08分,東経130度38分,標高850m)において,複数の尾根と谷を横断する輝石安山岩質の崖地に成立する岩上・岩隙植物群落の種多様性と生育環境を明らかにするとともに,同立地に生育するイワザクラ個体群の構造を把握することを目的とした。谷部の崖地では部分的に表流水(岩隙のごくわずかな流水)が見られた地点があったが,尾根の崖地では表流水は見られなかった。イワザクラは表流水がある一地点にのみ生育していることが確認できた。谷部と尾根部の間に大きな気温の差は見られなかったが,照度は谷部が大きい傾向があった。春期の気温の日較差が谷で大きかった。出現種数は,尾根よりも谷部の調査区で大きい傾向があった。特に表流水がありコケ層が厚い調査区で出現種数が多かったことから,水分を利用しやすい崖地ほど,植物の種数が多くなるが考えられた。尾根,谷ともにほとんどの調査区でカタヒバ,オオハンゲ,テイカカズラ,マルバウツギが生育していたことから,本調査地の岩上植物群落の大部分はこれらを区分種とするオオハンゲ-カタヒバ群落に相当すると考えられた。また,谷部の湧き水のある地点ではイワタバコが出現し,ミツデウラボシーイワタバコ群集の特徴と一致していた。イワザクラが確認できた調査区も同様の立地環境であると考えられたが,上記の標徴種および区分種が生育しておらず典型的な種組成ではないと考えられた。このイワザクラ個体群は,平均1.0~1.2cmの短いめしべを持つ個体と,平均2.6cmの長いめしべをもつ個体から構成されており,長花柱花と短花柱花の2型ともに確認された。