| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-146 (Poster presentation)
近年、熱帯の耕作放棄地や劣化林がどのくらいで回復するのかに関心が集まり、様々な研究が行われている。マレーシア・サバ州のDeramakotおよびTangkulap保護区では、伐採強度による回復速度の違いを比較した研究が行われており、伐採強度が高い森林では回復速度が著しく低下することが示されている。このように回復速度が抑制される要因の1つとして、土壌栄養塩濃度の低下が挙げられる。強度伐採では栄養塩を多く含む地上部やリター、表層土が大量に流出するため、伐採後の土壌は栄養塩が不足することが考えられる。そこで本研究では、伐採強度の異なる森林において土壌栄養塩濃度を比較し、伐採強度によってその濃度がどのように変化するのかを明らかにすることを目的とした。調査は前述の2つの保護区で行った。伐採強度の異なる林分、原生林から伐採後の低木林にかけて、30m×30mの調査区を計31箇所設置し、胸高直径(DBH)10cm以上の樹木を対象にDBHを測定し、樹種を属レベルで記録した。地上部現存量の指標として胸高断面積合計(BA)を、樹木群集の原生度を表す指標として原生林からの組成的距離を使用した。各調査区から表層土(5cm深)を採取し、アンモニウム態および硝酸態窒素(NH4-N、NO3-N)、可溶性無機態リン(Pi)濃度を測定した。その結果、NH4-N には胸高断面積合計(BA)と有意な関係はみられなかったが、NO3-NとPi濃度にはBAと有意な正の関係がみられた。また、NO3-N濃度は原生林からの組成的距離が増加すると有意に低下した。以上のことから、伐採によって残存する樹木の地上部現存量が減少する程、また、群集組成が劣化する程、窒素やリンの可給性が低下することが示された。こうした土壌栄養塩の可給性の低下が、劣化した森林の回復を制限している可能性があると考えられる。