| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-156 (Poster presentation)
森林における枯死木の分解速度はさまざまな要因により制御されている。枯死木の分解速度の制御要因において、特に生物的要因による制御機構についての理解が少ない。本研究では、生物的な要因として、真菌バイオマスや真菌の多様性、機能の違いに着目した。本研究は、チェコ南部のブナ天然林を対象とした。ブナの他にトウヒとモミが生育する1870年代からの保存林であり、25haの試験地のすべての生木、枯死木の追跡調査が行われている。2019年10月に、試験地の中心部に存在する51本の枯死木を対象に表面からのCO2放出量を測定して分解速度を得た。測定箇所の直下から得たサンプルのエルゴステロールの定量、qPCRによる真菌のコピー数を得た。また、アンプリコンシーケンスによるOTUや多様性指数、真菌の機能毎の存在比を得た。基質の特性として、樹種、分解場所(倒伏や立ち枯れ)、分解年数の他に、含水比、材密度、pH、リグニン、ホロセルロース、糖含有率を得た。さらに、リグニン、セルロース分解に関わる主な酵素活性を測定した。これらの要因と呼吸速度との関係を構造方程式モデリングで評価しパラメータを得たところ、基質の化学性、特にリグニン含有率が高い(セルロース含有率が低い)と糖含有率が低くなり、真菌のバイオマスに負の影響を与えることや、真菌のバイオマスと分解速度に正の相関を得た。分解場所によって機能群の存在比やフォスファターゼ活性に有意差がみられた。枯死木の分解速度の制御要因の理解のためには、真菌のバイオマスや機能群といった生物的要因の寄与を考慮する必要がある。