| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-161 (Poster presentation)
森林生態系の窒素・炭素安定同位体比(δ15N, δ13C)は、物質循環の指標として多く用いられている。葉の分解過程においては、分解による窒素の放出や外部からの窒素の取り込みによって同位体比は変化するが、その様式は気象条件によって異なることが予想される。本研究では、四国地域の降水量の異なる地域においてスギとヒノキの葉の分解試験を行い、炭素、窒素の重量減少とδ15N, δ13Cの変化を明らかにした。少雨地域と(年降水量:1350~1750mm)、多雨地域(2800~4050mm)において、それぞれスギとヒノキを4地点選定した。高知県のスギ、ヒノキ林において伐採した個体から採取した生葉からリターバックを作成し、2年間にわたって半年ごとにバックを回収した。ヒノキの炭素残存率は、分解後期に多雨地域で少雨地域よりも大きかったが、スギでは地域による差は認められなかった。窒素残存率は、スギでは初期に増加しその後減少したが、ヒノキでは時間とともに減少した。CN比はヒノキでは分解後期で多雨地域のほうが少雨地域よりも大きかったが、スギでは地域による差は認められなかった。ヒノキではδ15Nは、多雨地域で増加するが、少雨地域では減少した。スギではδ15Nは分解初期に増加したが、地域による差は認められなかった。窒素残存率とδ15Nの関係については、スギでは正の直線関係が認められ、窒素残存率の多い林分で、高いδ15Nの供給が卓越し、窒素固定の寄与が大きいと考えられた。ヒノキでは少雨地域でδ15Nが低下するため、低いδ15Nが外部から供給されると考えられた。以上の結果より、スギにおいては葉の分解過程において窒素固定の寄与が大きいこと、ヒノキでは降水量によって、外部からの窒素供給源が異なることが示唆された。