| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-163 (Poster presentation)
窒素汚染は生態系の劣化を引き起こす主要因の一つである。窒素汚染の影響を評価する際の指標生物として、コケが広く利用されている。コケは大気から栄養塩類を吸収するため、コケの窒素含有量(moss %N)は、大気降下物に含まれる窒素と強い相関があり、窒素降下物量を評価する際の指標となる。また、その窒素安定同位体比(moss δ15N)は窒素由来源の指標になり、硝酸態窒素/アンモニア態窒素の影響を区別するために用いられている。そこで,本研究では,窒素降下物の特徴(沈着量・組成)とmoss %N・δ15Nとの関係について考察し、コケを利用した窒素汚染の評価について検討を加えた。
ここでは、大気からの窒素降下物量を推定するため、窒素降下物が継続的に観測されている環境省・東アジア酸性雨モニタリングネットワークのモニタリングサイトを調査地とした。各調査地において、窒素降下物量(湿性沈着したNO3-、NH4+の総量と平均濃度)を算出するとともに、土壌の窒素成分についても分析した。
窒素降下物の特徴とmoss %N・δ15Nとの関係を分析した結果、予想に反して、コケに含まれる窒素分は土壌の影響を強く受けていたことが明らかになった。この理由として、(1)調査地間において土壌の窒素成分の差異が大きかったこと、(2)今回分析に利用した種(ハイゴケ)は地上に這うようにして生育し、土壌の影響を受けやすかったこと、が挙げられる。本研究成果はコケを利用した窒素降下物の影響評価の有用性の向上につながると期待される。