| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-165 (Poster presentation)
炭素・窒素安定同位体比を用いた生態系の食物網構造解析では、採取可能な生物でしか同位体比を測定することができないため、バクテリアなど採取困難な生物についての生態系内での役割を評価することができない。近年、環境中の核酸(DNA, RNA)の回収・精製技術が進歩しており、この同位体比を測定できれば、採取困難生物の同位体比情報を得ることができると期待される。しかし、そもそも核酸の同位体比が測定された例はほとんどなく、核酸と菌体の同位体比の関係についての最も基礎的な情報も存在しない。そこで本研究では、培養されたバクテリアを用いて安定同位体比測定に適した核酸の抽出方法の検討と、菌体―核酸の同位体比の関係を明らかにすることを目的とした。
脱窒菌(Pseudomonas aureofaciens)を複数の条件で培養し、ニッポン・ジーン社の核酸抽出キットISOPLANTとISOPLANT IIを用いて、一部改良したプロトコルで核酸を抽出した。抽出物を含む溶液の一部はタンパク質・RNA・DNA濃度を測定した。残りの溶液と脱窒菌菌体は凍結乾燥させ、微量試料用に一部改良したEA/IRMSにて抽出物と菌体の炭素・窒素安定同位体比を測定した。
ISOPLANT II抽出物ではタンパク質や試薬の除去が不十分であり、同位体比測定に適していないことが明らかとなった。ISOPLANT抽出物では、試薬からの炭素の混入が考えられた一方、タンパク質は検出されず、窒素安定同位体比の測定に適した抽出方法であると考えられる。菌体と抽出物の窒素同位体比の差は+7.7 ± 0.8‰と、大きな差が見られたが、その差は培養条件によらず一定であった。また、この抽出物にはDNAよりもRNAがかなり多く含まれていたことから、脱窒菌におけるRNAの窒素同位体比は菌体の値によって決定されている可能性が示された。