| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-168 (Poster presentation)
1984年に発生した木曽御嶽山の岩屑流跡地に天然更新したハンノキ属数樹種について、撹乱から35年目の窒素固定能を評価することを目的とした。岩屑流発生後に標高別に設定された固定調査プロットの中で、標高約2000 mの高標高区と、標高約1100 mの低標高区を対象とした。ハンノキ属樹種の窒素固定能は、窒素安定同位体比(δ15N)を用いた手法により評価した。同所的に生育しているハンノキ属樹種と窒素固定能を持たないカバノキ科樹種を選び、各個体の樹冠上部の葉を採取し窒素と炭素の同位体分析を行った。窒素固定の同位体分別を-1と仮定して、ハンノキ属樹種の窒素吸収量に対する窒素固定量の寄与率を推定した。樹高15 m以上のケヤマハンノキが優占する低標高区では、ケヤマハンノキのδ15Nが−2.1±0.3(平均±標準偏差)、カバノキ科樹種のδ15Nが−4.6±0.5で、窒素固定の寄与率は68.6%と推定された。高標高区では、植被率のばらつきが大きいため、ライントランセクト上の18地点で葉を採取した。δ15Nは、ミヤマハンノキ(−1.6±0.1)とヤハズハンノキ(−1.6±0.3)に比べてダケカンバで変動が大きく(−4.5±0.9)、窒素固定の寄与率は83.5±6.7%と推定された。ライントランセクト上の植生回復が進んでいる残存林分の林縁では、窒素固定の寄与率が74.5%と低かったが、植被率と窒素固定の寄与率の間には正の相関が見られた。植被率に対してダケカンバの炭素安定同位体比(δ13C)が負の相関を示し、ハンノキ属樹種のδ13Cがダケカンバより高かったことから、高標高区では水利用効率を高める水分ストレスが植被率やハンノキ属樹種の窒素固定の寄与率に影響を及ぼしていることが示唆された。以上より、ハンノキ属樹種の窒素固定能の寄与率が標高だけでなく、同じ標高でも植生の回復状況により変化することが示された。