| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-169 (Poster presentation)
シカなどの大型草食哺乳動物は,採餌行動による植生撹乱等を通して生態系の地上部および地下部に様々な影響を与え得るとされている。シカの生態系影響に関する研究は,広大な森林や草原といったシカの行動圏が制限されていない開放的な生態系において展開されてきたが,島嶼等の閉鎖的な生態系において行われた事例は非常に少ない。そこで本研究では,閉鎖的な生態系でエゾシカが高密度化した洞爺湖中島において,シカが生態系地下部や植物に与える影響を解明することを目的として,島内に設置された防鹿柵を用いることで,土壌の物理的・化学的特性及び,植物―土壌間における窒素動態に関する調査を行った。その結果,防鹿柵外は柵内と比して全域的に土壌硬度が高く,土壌表層のリター堆積量が少なくなることが明らかとなった。さらにシカの侵入を排除した防鹿柵内では,排除した年数に応じて土壌硬度が徐々に減少していく傾向にあった。土壌の窒素諸特性については,植生タイプによって傾向が大きく異なり,特にシカの利用性の高い草原では柵内に比べ柵外で硝酸態窒素濃度が顕著に高かった。また植物についても,土壌中の硝酸態窒素濃度が高い,草原地域柵外に生育するフッキソウにおいて植物体中の窒素濃度が顕著に高かった。これらの結果から,閉鎖的な洞爺湖中島ではシカの高密度化によって,土の踏み固めによる土壌硬度の上昇,排泄物や植物残渣の堆積に伴う土壌の純硝化速度および硝酸態窒素濃度が上昇している可能性が予想された。さらに土壌中の特異的な硝酸態窒素の増加は、その地域に自生する植物の化学特性間接的に影響を及ぼしていることも考えられた。以上の様な土壌環境特性は,本調査地がシカの移動可能範囲が限られている島嶼という閉鎖的生態系であったために,高密度なシカの影響が島内全域的に顕在化し,それらの影響が長期間に渡って維持されたことに起因する可能性が予想された。