| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-170 (Poster presentation)
窒素やリンなどの栄養塩は、植物の生育に必須の元素である一方、農地から環境へ逸出すると富栄養化などを通じて生態系を脅かす。施肥された栄養塩は、一部しか作物に吸収されず、加工・流通・調理・家畜やヒトの排泄などの過程で廃棄物となる。窒素・リンのフットプリントは作物の生産から消費にかけて発生する潜在的なロス量を定量的に示す指標である。本研究では、都道府県スケールの農地への窒素・リン投入の傾向と、それが加工・流通を経て日本国内8地域のどの地域の消費と結びついているのかについて明らかにすることを目的とした。作付面積と施肥・減肥基準を用いて、化学窒素肥料、有機窒素肥料、化学リン肥料、有機リン肥料の4種の施用量を作物別・都道府県別に求めた。次に、農畜産部門を分離した都道府県産業連関表の部門分類に合わせて、米部門(飼料用を除く)、麦部門(飼料用を除く)、その他耕種部門別に集計し、各部門への栄養塩投入量とした。これらを用いて産業連関分析により8地域の消費が誘発する農地への施肥量を窒素・リンフットプリントとして求めた。各肥料種の施肥総量に占める各地域の割合は、北海道(化学肥料19–22%、有機肥料37–39%)、関東(18–23%)、東北(13–19%)、九州・沖縄(12–19%)の順で大きかった。施肥地域と、その施肥と結びついた消費が行われた地域の関係をみると、北海道の施肥は地域内(55–56%)に加え、関東(23–24%)、近畿(8%)の消費との関係が強く、中部、中国、四国、九州・沖縄も類似の傾向であった。また、関東の施肥は地域内(82–83%)の消費と、近畿の施肥は地域内(69–70%)と関東の消費(12%)との関係が強かった。4種のフットプリント総量に占める寄与率は、関東(23–24%)、九州・沖縄(17–21%)、中国地方(17–20%)で高く、そのうち地域内生産が占める割合は、関東(49–53%)、近畿(35–41%)では低かった。以上より、北海道などの農業地域での施肥が関東・近畿などの都市部の消費と結びついている傾向が明らかとなった。