| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-175  (Poster presentation)

エゾクロクモソウ(ユキノシタ科チシマイワブキ属)の分布と系統推定 【B】
Distribution and phylogeny of Micranthes fusca (Maxim.) S.Akiyama et H.Ohba (Saxifragaceae) 【B】

*福田知子(三重大学)
*Tomoko FUKUDA(Mie University)

エゾクロクモソウMicranthes fusca (Maxim.) S.Akiyama et H.Ohba は九州~千島列島の渓流沿いや湿った岩の間などに生育する。北海道の針葉樹林下や本州中部の高山に多く見られ、冷涼な気候を好むと考えられる一方、近畿・九州の山地にも分布することから、生育条件に関心が持たれる。そこで標本情報や実地調査によって、生育地ごとに暖かさの指数WI(Warmth Index, 吉良1948)を求めた所、WI値は11.9°~87.4°まで大きく変化し、生育する植生帯も亜高山草原から落葉広葉樹林帯まで広範囲にわたっていた。近畿、九州では高いWI値が予想されたが、多くの場合、同様な値は本州の他の生育地でもみられた。ただし、WI=79.1°, 87.4°という特別に高い値が九州の一部の集団のみで見られた。
エゾクロクモソウには花序の毛の形態の特徴によりクロクモソウvar. kikubuki(九州~東北中部)、エゾクロクモソウvar. fusca(東北中部~知床を除く北海道)、チシマクロクモソウvar. kurilensis(知床~千島列島)の3変種が認められている。種内の系統関係を調べるため、九州~千島列島(国後)までの生育地28集団について核リボゾームITS領域689bpと葉緑体DNAのtrnC-rpoB, matK領域1605bpに基づき最尤法系統樹を作成した。その結果、いずれの樹形についても、クロクモソウが複数回分岐し、エゾクロクモソウとチシマクロクモソウの一部が同じクレードを形成するなど、各変種は遺伝的なまとまりを反映していなかった。またITS系統樹では、種としてのエゾクロクモソウは単系統にならず、外群に対してチシマクロクモソウが初めに分岐していたのに対し、cpDNA系統樹では種として単系統になり、クロクモソウが初めに分岐するなど、両者の樹形は大きく異なっていた。このことから、今後、エゾクロクモソウの形成過程解析の際には、交雑、incomplete lineage sorting などの影響も考慮する必要がある。


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