| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-182 (Poster presentation)
三宅島は島内に生息する鳥類の個体密度の高さや希少な固有種、亜種の多さから「バードアイランド」と称されてきた。しかし、2000年に発生した大量の火山ガス放出を伴う大規模噴火により島内の多くの鳥類とその生息地が被害を受けた。本研究では、鳥類の個体数、個体密度共に噴火直後の減少から概ね回復していると考えられてきた三宅島野鳥公園と大路池周辺を研究対象地とし、鳥類の噴火前から現在までの長期観察データを用いて、鳥類の回復状況を検証することを目的とした。
三宅島自然ふれあいセンター・アカコッコ館では、1993年7月から現在に至るまで、三宅島野鳥公園と大路池周辺を対象とした鳥類調査を、毎月平均約2回のペースで行ってきた。この調査は、照葉樹林を中心とする調査地内のコースにおいて、片側25mずつの範囲に出現した鳥の種類と個体数を目視または鳴き声によって識別して記録するラインセンサス法を用いて行われている。噴火前から同じ地点において、同じ方法によって調査が継続されており、噴火活動に対する生物の応答を理解するための貴重なデータとなる。
本研究では、鳥類個体数に着目し、その変動の傾向を分析した。鳥類個体数の経年変化データをスピアマンの順位相関係数により分析した結果、期間を通じて鳥類個体総数は減少傾向にあり(p<0.01)、季節毎に見ると、特に繁殖期(p<0.01)と夏鳥が残る時期(p<0.05)で減少傾向が認められた。また、鳥類種別にも相関分析を行った結果、カラスバトやアカコッコ、モスケミソサザイといった三宅島において観光資源ともなっている伊豆諸島固有の種や亜種にも減少傾向がみられた。
これらのことから、2000年噴火後から鳥類の個体数・個体密度が概ね回復したとされた地域においても、鳥類の個体数が減少傾向にある可能性が懸念される。また、減少傾向の見られた種については、種毎の生態に即した適切な保護計画の策定が自然環境と観光、どちらの面からも求められるだろう。