| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-184 (Poster presentation)
ヤエヤマハラブチガエルNidirana okinavanaは森林伐採等に伴う湿地の消失により生息状況の悪化が懸念されているが、個体群の存続可能性に着目した研究は少ない。本研究では、本種の繁殖状況と遺伝的構造を明らかにすることを目的として、複数の地域個体群を対象に齢構造解析及び遺伝学的解析を行った。
2019年7月~2020年11月に石垣島5地点、西表島3地点で116個体を捕獲し、後肢指骨の一部を試料として採取した。このうち106個体の指骨断面を観察し年齢を推定した結果、1-5歳(5歳群が出現したのは1地点のみ)で構成され、1歳になると性成熟に達することが示唆された。地点別では解析できた6地点のうち5地点では全ての年齢の個体が確認され、そのうちの2地点では若齢個体が多く、高齢になるにつれ個体数が減少する傾向が認められた。これらの生息地では繁殖が成功し、世代交代が行われていると考えられる。残り1地点は2歳群のみで構成されており、近年の繁殖が成功していない可能性が示唆された。遺伝学的解析では8地点から計59個体を抽出し、ミトコンドリアDNAのCOⅠ遺伝子(1,554bp)の配列を決定した結果、12のハプロタイプ(Hap01〜12)が検出された。各地点のハプロタイプ多様度(h)及び塩基多様度(π)を比較すると、1地点でHap08のみが確認され、h、πともに最も低い値を示した。Hap08はこの地点に固有で他のハプロタイプと遺伝的に近縁であることから、この個体群は繁殖に成功しているものの、他個体群との遺伝的交流が長い間分断されてきたと考えられる。このような集団は複数年にわたり繁殖に失敗した場合、周辺からの個体移入が生じず急速に集団サイズが縮小する可能性がある。以上のことから、地点によっては将来的に絶滅リスクが高まる恐れがあるなど、地域個体群によって存続可能性が異なることが示唆された。