| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-185 (Poster presentation)
造礁サンゴで一番多くの種を持つミドリイシ属サンゴは多種同調産卵を行なうことが知られている。これは物理的に交雑が起こりやすいことを表し、分化と融合が繰り返されることによる多様化の創出を示唆している。また、中間形態の存在や異種間交配が可能な種が確認されていることから、野外でも交雑が起こり、遺伝子浸透が生じている可能性が高い。一方で、実際に多種同調産卵がみられる地域は少なく、各地域における交雑や遺伝子浸透は一定ではないことが予想される。本研究では、多種同調産卵の頻度が異なる2つの調査地域において、遺伝的に近いミドリイシ属サンゴ3種を対象に遺伝的構造解析を行い、多種同調産卵の頻度が遺伝子浸透の程度に影響を及ぼしているのかを検証した。
多種同調産卵が毎年みられる沖縄県の阿嘉島と同調産卵がばらつく瀬底島を対象地域とした。両地域においてサボテンミドリイシ、トゲスギミドリイシおよびオヤユビミドリイシを複数群体、さらに阿嘉島ではサボテンとトゲスギが親種であると考えられる推定雑種2群体も加え、全群体の位置情報を記録し、枝片を採集した。DNA抽出およびMIG-seqによるSNP検出後、STRUCTUREとPCoAにより遺伝子浸透を視覚化し、その程度を確認した。
両地点においてトゲスギとオヤユビの遺伝的構造がほとんど同じであることがわかった。しかし、阿嘉島のサボテンはトゲスギ・オヤユビ集団への遺伝子浸透がみられ、中でもトゲスギ集団により多く浸透していることがわかった。このことから、多種同調産卵の頻度が遺伝子浸透の程度に影響を及ぼしていること、また対象種が交配選好性を持つ可能性も考えられた。また、トゲスギとオヤユビの産卵時刻は重なっているが、サボテンは他2種と異なっていることが分かっている。トゲスギとオヤユビの遺伝的構造の類似性およびサボテンとの遺伝的距離は、産卵時刻の違いが原因の一つだと考えられた。