| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-186 (Poster presentation)
半自然草原は火入れや採草といった人為管理によって維持されてきた生物多様性の高い生態系である。しかし、過去数十年間で管理放棄や農地・人工林化によって世界的にも急速に減少し、多くの草原性種が絶滅危惧種となっている。一方、過去に草原であった履歴をもつ森林において、しばしば草原性植物が生育しており、草原の履歴効果が指摘されている。草原の履歴効果がはたらく機構として、種子供給源となる個体群が周辺に残存している、種子資源が残存している場合が考えられる。このような履歴効果の解明は、消失した半自然草原の再生地選択や種の回復資源を確保する上で重要である。
本研究では、過去に半自然草原として利用され、現在多様な土地利用(管理草原、放棄草原、落葉性人工林、常緑性人工林)が行われている長野県木曽町の11サイトを対象に植生調査および埋土種子調査を行い、地上部植生および埋土種子に草原性種が存在しているかを検証した。
調査の結果、地上部植生から約60種、埋土種子から約30種の草原性種が出現した。放棄草原では、管理草原と比較して地上部の草原性種は種数が低いながらも出現したが、埋土種子の草原性種数は著しく低かった。落葉性人工林では、地上部の草原性種数は低いながらも出現し、埋土種子の草原性種数は同程度に存在したが、その種組成は異なっていた。常緑性人工林では、地上部の草原性種数が著しく低い一方、埋土種子の草原性種数は同程度であった。外来種の埋土種子に着目すると、常緑性・落葉性人工林より放棄草原で種数および種子数が高かった。
以上より、現在の改変された土地利用下においても草原性植物の地上部個体群および埋土種子が存在するが、その種および量は限定的と考えられた。現在、草原再生は放棄草原での管理再開によって試みられることが多いが、本研究から森林管理による草原再生の可能性が示唆されるとともに、放棄草原での草原再生では外来種管理が課題になると考えられた。