| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-193 (Poster presentation)
草原は数多くの絶滅危惧種が生息し、緊急に保全が必要とされる環境の一つである。山梨県富士北麓は今も草原が残る日本でも数少ない場所の一つであるが、約60年にわたる管理放棄と近年のシカの増加によって草原性生物が減少しつつある。そこで、草刈とシカ柵の設置によって豊かな草原がどの程度再生するかを評価するために、草原性植物やチョウ類を指標とした調査を開始した。本講演では、草刈とシカ柵設置の実施前と実施一年後で植物や開花した昆虫媒花植物の種数、チョウの種数・個体数がどのように変化したか報告する。
富士北麓の放棄草原の一つに、25 m四方の方形区を二つ設置し、片方をシカ柵設置区、もう一方を非設置区とした。また、この方形区を半分に分割し(この単位をプロットとする)、片方を草刈区、もう片方を非草刈区とした。草刈した草は熊手で集めて枠外に出した。このセットを草原内に4つ設置した。植物はプロット内に1 m四方のコドラートを12個設置し、初夏(6月中旬)は開花植物のみ、初秋(8月末~9月上旬)は全植物と開花植物を1~4のスコアで記録した。チョウはプロット単位で調査を行った。植物、チョウともに草刈・シカ柵設置の前後で増加・減少した種の数を応答変数とし、草刈とシカ柵の有無、8月末の草丈、pHを説明変数、セットをランダム効果とする一般化線形モデルで解析した。
植物種数、花が増えた昆虫媒花の植物種数の増加には草刈とシカ柵の両方が貢献したが、植物種数の増加には草刈、花の増加にはシカ柵がより効いていた。一方、減少した植物種数や花が減った植物種数には草刈とシカ柵は無関係であった。チョウの種数、個体数には特にシカ柵の設置が重要であった。以上のことから、草刈とシカ柵の組合せが植物、花、チョウの増加に重要であるが、草刈だけでは十分な効果が期待できないことが明らかになった。