| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-195 (Poster presentation)
生物と環境は強く結びついており、分布域が拡大する際には新たな環境への適応という課題に直面する。スイセンハナアブはヨーロッパ原産のハナアブで、近年北半球の温帯域において広範囲に分布を拡大した。本種が侵入して野外に定着したアジアやアメリカでは、それぞれの地域の環境への適応があったはずであるが、詳しい研究はおこなわれていなかった。演者はスイセンハナアブの色彩多型に着目し、日本への侵入と定着の過程で自然選択が働いているかという点に興味を持ち、研究を進めてきた。本種の色彩多型は複数種のマルハナバチに擬態しているものと考えられており、侵入地ではそこで優占するマルハナバチと類似する色彩型が有利になると予想される。体色の進化は環境中に存在する様々な要因の影響を受けると考えられるが、マルハナバチの体色は、スイセンハナアブの体色の進化に影響を及ぼす要因の一つである。演者はこれまでに4地点(東京、横浜、埼玉、仙台)でスイセンハナアブを約1200個体サンプリングし、その色彩多型の構成を、過去にヨーロッパで公表されている知見と比較した。その結果、日本では、本種の代表的な色彩型のうちvalidusと呼ばれる型(黒色で腹端のみ黄色)が非常に多く、equestrisと呼ばれる型(明るい茶色で胸部に一本の黒帯を持つ)が極端に少ないことが分かった。関東や東北の平地ではコマルハナバチとトラマルハナバチの2種のマルハナバチが優占的で、validusはコマルハナバチと類似し、equestrisはどちらとも類似していない。スイセンハナアブは日本において、侵入した地域のマルハナバチと類似している色彩型を増やし、類似していない色彩型を減らしてきた可能性が高い。これは環境適応の過程で、より捕食されにくい色彩型が選択されてきた可能性を示している。