| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-197 (Poster presentation)
哺乳類の場合、出生地からの分散はオスで見られることが多い。しかしヒトの進化の隣人であるボノボ(Pan paniscus)とチンパンジー(Pan troglodytes)では、オスが分散せず出自集団に定留し続ける。Pan属におけるオスの定留性は、血縁関係のあるオス同士が協力して他集団のオスからメスを防衛することが適応的であるため進化したと考えられる。しかし、集団内のオス同士が他集団のオスよりも強い血縁で結びついていることを実証するデータは極めて少ない。本研究では野生のボノボ3集団、チンパンジー2集団を対象とし、集団内のオス間血縁度を異なる集団のオス間のそれと比較した。全オトナオスから試料を非侵襲的に採取し、抽出DNAを分析して全個体の常染色体マイクロサテライト8座位の遺伝子型を決定した。そこから全オス間の血縁度を推定した。両種ともに、集団内のオス間平均血縁度は異なる集団のオス間のそれよりも高い値を示した。ただしその差は、ボノボでのみ統計的に有意であった。両種の結果をプールすると、集団内のオス間平均血縁度は異なる集団のオス間のそれよりも有意に高かった。集団内のオス同士の方が異なる集団のオス同士よりも強い血縁で結びつくという結果の背景には、オスの定留性に加え、オスの繁殖の偏りが大きいことが関係していると考えられる。本研究により、Pan属のオスの定留性の進化は、オス同士の血縁選択が基盤となって起こったことが示唆された。