| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-198 (Poster presentation)
異なる生息場所への進出は、形質の進化の方向や速度を変化させる可能性がある。哺乳類の大部分は陸生であるが、クジラ類、カイギュウ類、鰭脚類といった分類群は水生である。イタチ科の中では陸生と水生の移行が生じており、大半の種は陸生であるが、カワウソ類は主に水域で生活し、中でもラッコはほぼ完全な水生である。ラッコは現生イタチ科で最大の種であり、その体重は最大の陸生種の2倍に達する。
哺乳類全体においても、陸生分類群の最大サイズよりも大きな種が水生分類群で見られる。このことを説明する仮説には、水中での活動では大きな体が有利であるために、大型化する進化が起こったというものがある。この場合、水生に移行すると、体サイズを大型化させる選択が作用するであろう。それに対して、陸上で体サイズにかかる制約が水中で緩和されることによって、非常に大きな種が出現したという仮説もある。この場合、水生に移行した分類群では、体サイズの進化速度が大小いずれの方向においても増大するであろう。
系統種間比較分析によって、イタチ科における体重の進化を検証した。系統樹上での形質進化のモデルを評価するために、シミュレーションに基づく近似尤度と近似ベイズ計算による手法(Harano & Kutsukake 2018)を利用した。その結果、カワウソ類で特異的な大型化の方向性選択の作用が検出された。ラッコと他のカワウソ類との間で、大型化の方向性選択の強さに差は検出されなかった。カワウソ類において、体重の進化速度が両方向で増大することを表すモデルは支持されなかった。これらの結果は、水中で活動における大きな体の利点が、カワウソ類の体サイズの進化を推進することを示唆している。体サイズの進化におけるカワウソ類で特異的な選択の作用は、形質進化にOrnstein–Uhlenbeck (OU) モデルを適用した先行研究では検出されていないものである。