| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-200  (Poster presentation)

アジ科魚類の遊泳関連形質に見られる適応進化 【B】
Adaptive evolution of swimming-related characters in Carangid fishes 【B】

*岸田宗範(宮内庁・生研)
*Munenori KISHIDA(Imperial Household Agency BLIP)

 海洋の沿岸~沖合に生息するアジ科魚類は、全世界で約150種が知られ、ブリのような流線形からギンガメアジのような側扁形まで、様々な外部形態を示している。これまで、分類学や系統学、水産資源学的な観点からの形態解析は多く行われて来たが、生息環境との関係性に注目した生態形態学的な解析はなかなか行われて来なかった。アジ科魚類の分子系統樹推定を行ったReedらは、本科の体形の適応進化の可能性について指摘しているが、定性的な体形比較に留まっている。
 そこで本研究では、日本産のアジ科魚類57種の分類学的再検討を行ったGushiken(1983)等の文献から、遊泳に関連する機能形質の計測データ(体高や各鰭の長さ等)を収集し、多変量解析により全体的傾向を明らかにした上で、既往の機能形態学的知見と分子系統樹に基づき、遊泳関連形質の適応進化について考察した。
 18の機能形質の標準体長比(形質比)に対して主成分分析を行った結果、第1~3主成分の累積寄与率は60%以上となり、アジ科を構成する4亜科はそれぞれ異なる位置を占めた。機能形態学的知見に基づいて、18の機能形質比を遷移的推進(加速遊泳や方向転換)に寄与する形質群と周期的推進(等速遊泳)に寄与する形質群にグルーピングしたところ、4亜科はいずれかの形質群の卓越により特徴付けられることが判明した。
 分子系統樹上で形態進化について考察すると、祖先種から遷移的推進形質群が卓越する系統(コバンアジ亜科・イケカツオ亜科)と周期的推進形質群が卓越する系統(ブリモドキ亜科・アジ亜科)が進化し、さらに後者のアジ亜科の中では遷移的推進形質群が卓越する系統と周期的推進形質群が卓越する系統に分かれ、科→亜科→属→種と階層的に卓越する形質群がシフトを繰り返す反復的進化が起こって来たと推察された。
 このような機能的な形態進化は、各系統の生息環境と符合しており、遊泳様式と密接に関連した適応進化であると考えられる。


日本生態学会