| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-201 (Poster presentation)
サトイモ科ザゼンソウ属は現在5種が知られており、日本国内には花序での発熱が知られるザゼンソウとナベクラザゼンソウ、非発熱のヒメザゼンソウの3種が生育する。寒冷地での発熱が報告されている植物はザゼンソウ属のみであり、発熱形質が寒冷適応に寄与している可能性が考えられる。しかしながら、ナベクラザゼンソウは2002年、ロシアザゼンソウは2005年と比較的最近新種として記載されており、さらに韓国のザゼンソウが日本のザゼンソウよりもヒメザゼンソウに系統的に近縁であるなど、現在もその分類や生態は不明瞭である。そこでザゼンソウ属の遺伝的多様性や集団構造に発熱形質がどのような影響を与えるかを調べるために、野外サンプルおよび博物館標本の葉緑体DNAを用いて発熱種と非発熱種で遺伝的多様性を比較した。その結果、ヒメザゼンソウは日本全国で遺伝的に均一であったのに対し、ザゼンソウは地理的に傾向のある4つの遺伝子型に分けることができた。そのうちの一つはナベクラザゼンソウと一致しており、種分化の起源集団である可能性を示した。また、韓国のザゼンソウと一致する遺伝子型は日本国内からは見つからなかった。この集団構造の差異に発熱形質による寒冷適応が影響しているとすれば、氷河期のような寒冷環境での分布の差異が関係している可能性が考えられる。そこで、生態ニッチモデリングによって発熱種と非発熱種の現在と最終氷期の生育適地を推定し、種間で比較した。その結果、現在の生育適地のほとんどが2種で重複しているのに対し、最終氷期ではザゼンソウの方が広域に分布しており、かつその生育適地がパッチ状に存在していたことがわかった。ヒメザゼンソウは最終氷期以降に急速に分布を拡大し、ザゼンソウは氷河期にも広域に分布していたことが現在の集団構造の差異を生んだ要因であると考えられ、発熱形質による寒冷適応が関与する可能性を示唆した。