| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-203  (Poster presentation)

アリの協調運搬はどのように進化したのか?
Evolution of cooperative transport in ants.

*久本峻平(国立環境研究所), 西川星也(早稲田大学)
*Shumpei HISAMOTO(NIES), Seiya NISHIKAWA(Waseda Univ.)

仲間と協働するアリの集団行動は「群知能」や「創発」などで形容され、1個体での行動よりも高度で効率的だと考えられている。そのようなアリの集団行動の一種に複数の個体で1つのエサを運搬する協調運搬があり、個体間の協働の機序を知るためのモデルとして近年着目を集めている。たとえば、ヒゲナガアメイロアリの協調運搬では、運搬の役割を短時間で次々と交代させることで巣の方向情報を最新のものに更新し続けることが知られている。しかし、このような高度な協働を伴う協調運搬を行う種はアリの中でもごく一部で、多くの種は単独で運搬する。また、協調運搬を行う種が運ぶエサのサイズは単独で運搬する種のそれよりも大きいとは限らない。そのため、直感に反して高度な協働を伴う協調運搬は効率的ではなく、ごく限られた条件でのみ有利となると推測した。そこで、本研究では協調運搬が進化する条件、要因を数理モデル、メタ解析、定量的な解析という複数のアプローチで検証した。
まず、数理モデルを構築してアリの1個体あたりの体サイズ、運搬者の数、エサの重さなどのパラメータと運搬効率との関係を計算した。この数理モデルから、体サイズが大きくなると協調運搬の運搬効率は低下することが示唆された。この予測を検証するために、標本画像のデータベースからメタ解析を行ったところ、高度な協働を行う種の体サイズは小さい傾向があることが明らかになった。さらに、種間差をより詳細に比較するために、さまざまな種の協調運搬を撮影して解析した。その結果から、体サイズ以外にもフェロモンの使用の有無や脚の長さなど、様々な形質が協調運搬の進化と関連していることが示唆された。


日本生態学会