| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-207 (Poster presentation)
集団内の色彩多型現象は,自然集団における遺伝的多型の維持機構を追究するモデル系として広く用いられてきた.近年,我々もカウンターシェーディング(CS)と関連した色彩多型の生態ゲノミクス研究に取り組んでいる.CSとは背側が暗色で,腹側が明色になる現象を指す.この現象は幅広い動物分類群で知られており,生態学的には,迷彩の一種として捉えられることが多い.その一方で,腹側も背側と同様に暗色になるタイプ(非CS)が同所的かつ安定的に出現する動物が知られている.この色彩2型の進化的維持機構はいったいどのようなものだろうか.
琵琶湖産ヒガイ属魚類には,ビワヒガイとその非CS型と考えられるアブラヒガイという2色彩型が同所的に存在する.ビワは琵琶湖水系内の砂礫帯から岩礁帯に広く分布するのに対し,アブラは湖内の岩礁帯のみに分布していることが知られており,アブラの色彩は岩礁環境への適応であると考えられている.両ヒガイは分類学的には別種であるとされてきたが,ゲノムワイドな解析から,集団内色彩多型の一例と見なすことができた.我々は全ゲノム解読,連鎖解析や機能解析などを駆使して,この非CSの背後にある原因DNA変異の同定に成功し,原因DNA変異およびゲノムワイドな多型情報を基盤とした様々な集団遺伝学的解析,両色彩型の生息地選択パターンの解析,野外生態学的実験など多角的なアプローチからこの現象の進化的維持機構の追究を試みた.結果として,CS型/非CS型の維持は,下記のような不均一な湖沼沿岸環境下における選択圧の空間的変異と関連した平衡選択によって進化的に維持されていることが強く示唆された.(1)琵琶湖内の環境異質性(岩礁域 vs. 砂礫帯),(2)色彩変異の遺伝的背景[非CSをもたらすアリルが潜性(劣性)],(3)冬期の沖合への移動も含めた生息地間の遺伝子流動の存在.