| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-210  (Poster presentation)

同一島嶼における洞窟性魚類の異なる進化履歴 【B】
Different evolutionary histories of cave fishes on the same island 【B】

*小林大純(琉大学熱生研), Kawilarang W. A. MASENGI(UNSRAT), 山平寿智(琉大学熱生研)
*Hirozumi KOBAYASHI(TBRC, Univ. Ryukyus), Kawilarang W. A. MASENGI(UNSRAT), Kazunori YAMAHIRA(TBRC, Univ. Ryukyus)

洞窟性生物は,地域ごとに異なる分類群が共通の暗所適応的な形質を持つことから,古くから進化生物学の対象として純淡水魚のような非回遊性の分類群をモデルに研究されてきた.一方近年,熱帯島嶼に生息する多くの洞窟性水性生物は祖先種に海を介して分散する通し回遊性の広域分布種を持つことが明らかになりつつある.しかし,同じ広域分布の分類群を祖先にもつ島嶼性洞窟生物の中には,島を越えて広域分布する種類(広域分布種)と特定の島嶼にのみ見られる種(狭域分布種)という異なる分布パタンを持つものが知られており,これらの異なる分布パタンの形成機構については不明であった.
発表者らのこれまでの研究で洞窟性の広域分布種は現在も両側回遊性の生活史を部分的に保持している一方で,狭域分布種は非回遊性であることがわかっており,洞窟性の狭域分布種の成立の初期段階では広域分布種であった可能性が示唆されている.もし,このような広域分布種を介した狭域分布種の進化が起こる場合,狭域分布種の近縁種からの分岐は,近縁な広域分布種よりもより古い可能性が考えられるが,近縁な系を用いて両者を比較した例は存在しない.
ハゼ亜目魚類は広域分布種と狭域分布種の両方の洞窟魚を含むことから,このような仮説を検証するのに適した系である.発表者らは,インドネシアのスラウェシ島に生息する異なる分布範囲を示す洞窟魚(広域分布種:カワアナゴ属,狭域分布種:ジャノメハゼ属)を対象にそれぞれの属内での系統的位置をゲノムワイドSNPsとミトコンドリアDNAでそれぞれ解析した.他の洞窟性ハゼ類の先行研究と合わせて結果を検討したところ,狭域分布種は広域分布種より古い時代に分化したことが示唆された.
講演では,推定された分岐年代に基づいて両洞窟性種の種分化と地誌イベントの関係ついても議論する.


日本生態学会