| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-211 (Poster presentation)
雌が複数の雄と交尾する現象(多雄交尾)は、幅広い動物分類群において観察されており、多雄交尾の進化を説明するために、これまでに多くの進化生態学者達が悩み続けてきた。雌の多雄交尾の進化を説明する仮説の一つに「bet-hedging説」がある。雌が雄の質を正確に認識出来ない場合、一雄交尾雌はハズレ雄(例えば、不妊雄)との交尾によって適応度がゼロとなってしまうリスクがある。雌は多雄交尾することで、ハズレ雄と交尾したとしても交尾相手の中に健全雄が含まれていることで適応度がゼロとなるリスクが低くなるだろう。このようにbet-hedging説では、雌の多雄交尾は適応度がゼロとなるリスクを回避するように機能すると主張されている。近年、この仮説は注目を集めつつあるが、実証研究は数少ない。
本研究では、雌が多雄交尾を行うコクヌストモドキTribolium castaneum を用いて、ハズレ雄が集団内に含まれている時の一雄交尾雌と多雄交尾雌の卵の孵化率を調査した。ハズレ雄として、ガンマ線照射によって不妊化した雄(射精された精子は卵子との受精が可能であるが孵化しない)を用いて、ハズレ雄が20%含まれている雄集団の中から無作為に取り出し、一雄交尾雌は1個体の雄と、多雄交尾雌は5個体の雄とそれぞれ自由に交尾させた。その結果、多雄交尾雌の孵化率は一雄交尾雌よりも有意に高いことが明らかになった。さらに、本実験で得られたデータを用いて、複数世代を通した幾何平均適応度をシミュレーションして算出し、処理区間で比較したところ、多雄交尾雌の方が一雄交尾雌よりも幾何平均適応度が有意に高いことが明らかになった。これらの結果は、雌の多雄交尾はハズレ雄が集団内に存在する時に絶滅を回避する保険となることを示唆しており、bet-hedging説が雌の多雄交尾の進化を説明する有力な仮説であることを示している。