| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-216 (Poster presentation)
国際化と外来生物問題は切り離すことができない.外来生物の侵入経路を特定し今後の侵入可能性を予測することは,対象とする生物の侵入に対する水際対策として必要不可欠である.意図的に導入された外来生物の侵入経路は比較的容易に特定できるが,非意図的導入種の侵入経路の特定は困難がともなう.北米原産のヒガタアシSpartina alternifloraは,2010年前後に非意図的に日本に侵入した.本種は,諸外国では干潟造成などの産業利用目的で意図的に導入されたが,管理下から逸出した個体が急速に拡大し,侵入各地で干潟生態系に甚大な被害を及ぼした.わが国でも,侵入地点(愛知県,熊本県)の干潟の動植物相に大きな被害が及び,根絶に向けた対策が進められている.しかし,2020年11月に,山口県下関市で国内3例目のSpartina属植物の侵入が確認された.現時点で本属植物の侵入経路は解明されておらず,効果的な水際対策を講じられていない.そこで本研究では,日本におけるSpartina属植物の侵入実態の解明に向け,国内集団の遺伝的構造を明らかにした.本属植物の侵入が確認されている地点から複数の試料を採集して,葉緑体DNAを対象とした塩基配列決定および核DNAを対象としたマイクロサテライト分析(11座)を実施し,既存文献(Blum et al. 2007)と比較した.その結果,解析に供したサンプルは全て,S. alternifloraであり,単一のC4というハプロタイプと一致した.C4タイプは,原産地域の北米では主に南東部,人為的導入地域の中国では,一部を除き沿岸地域のほぼ全てで優占している.なお,山口県のサンプルは葉緑体DNAの増殖不良につき,現時点でハプロタイプの決定には至っていない.マイクロサテライト分析より,侵入が確認された愛知・熊本の各河川はいずれも多様度が低く,ボトルネックの影響がみられた.さらに,STRUCTURE解析の結果から,愛知県の集団と熊本県の南北2集団が明瞭に異なるクラスターに帰属しており,各集団が独立して侵入したことが示唆された.