| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-217 (Poster presentation)
外来生物が生態系に及ぼす影響のリスク推定は対象の外来種がもつ生態学的な形質に基づいて評価されるが,侵入環境によっては低リスク種でも高い侵略性を示す場合がある。そのため,より適正な評価のためには侵入地の環境特性やその種の環境要求性を考慮する必要がある.例えば小笠原諸島において,ギンネムは多くの島で甚大な生態的影響を及ぼしている侵略的な外来樹木である一方,一般に比較的低リスクと評価されている外来樹木のアカギは母島では著しい侵略性を示している.
本研究では「外来樹木の土壌養分要求特性と侵入先の土壌特性が一致する場合に侵略性が発揮される」という仮説を検証するためギンネムとアカギを用いた栽培実験を行った.貧栄養・強酸性の聟島列島媒島の下層土壌を用いてpH(CaCO3)および栄養塩(KNO3, P2O5)を操作した8処理(各要因2水準)の実験で,両種とも栄養塩の乏しい酸性土壌では実生の成長量が小さかったが,栄養塩が豊富な場合には土壌pHに関係なく成長量が増加した.特に,アカギでは酸性・富栄養の土壌条件で最も成長量が大きくなる傾向があった.
この結果は小笠原諸島各島における土壌特性と外来樹木の蔓延状況に矛盾しない.母島では強酸性・富栄養(N, P)の土壌が島内に広く分布しているため,外来樹木の生育が促進され蔓延のリスクが高いと考えられる.一方で,過去に表層土が流出した島(媒島,父島など)の貧栄養土壌では,少なくともアカギは侵略性を示していない.これらの事は,外来樹木による生態系リスクの評価において,侵入地の土壌特性との適合性を考慮することが重要であることを示唆している。