| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-223 (Poster presentation)
クビアカツヤカミキリ (Aromia bungii; クビアカ) は中国及び朝鮮半島を原産地とするバラ科樹木を寄主とする昆虫であり、世界的な検疫対象である (EPPO)。本邦では2012年にクビアカによる被害が初確認された。特に本邦の都市部はソメイヨシノ等のバラ科樹木が数多く存在する、世界的には希な環境であり、急速な被害拡大が懸念される。そこで、2015年以降大阪府において生息確認され、分布を拡大しつつあるクビアカの2017年~2019年の分布調査から、被害の拡大状況を示す基礎的パラメータの推定による被害予測モデルを構築するために解析を行い、分布拡大予測と2020年調査の比較を実施した。
2018年、2019年に新たにクビアカ被害木が確認された地点は、前年に被害の確認された最近接地点から中央値で1.6 km、最大5 km離れていた。この距離分布をクビアカ分散距離と仮定し、2020年に既知のクビアカ分布域の外において被害木の分布を調査した結果、49地点中15地点で新規の被害木を発見した。被害木の分布範囲は北に大きく延伸した一方、南や西への分布拡大は限定的であった。都心部は山本ら (2019) が推定した初発地から見て北西に位置し、森林など、寄主木密度が低い土地利用が優占する郊外では分布拡大が抑制されていると考えられた。また、初発地点周辺、被害木が高密度に分布している地域での被害木の増加は少なく、その外周で被害木の増加が顕著であった。新規に被害の確認された調査木は被害木割合と負の相関を示しており、被害初確認から3年後において、初発地点付近の被害木数の増加は飽和しつつあると考えられた。以上のように、本邦の都市においてはクビアカの分布拡大を制限する要因はほぼ見られず、分布拡大から被害木の増加までが短期間に進むことから、定着初期の発見と防除が本種の分布拡大を止めるうえで重要であると考えられる。