| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-236 (Poster presentation)
湿原は最も脆弱で減少が著しい生態系の一つとされており,残存する湿原の多くが人為的撹乱の影響を受けつつある.こうした背景から,とりわけ植生変化の把握は生態系劣化の徴候を把握し対策を検討する上で不可欠なモニタリング項目であるといえる.しかし,湿原内部へのアクセスは一般に容易ではない.また,立ち入りによる植生への踏圧ダメージや,希少動物への影響も懸念される.これら湿原特有の事情は,立ち入り調査への強い制限となっている.
近年,カメラ搭載UAVを利用した様々なモニタリング調査が行われるようになった.しかし,それらの空撮調査では植生の表層しか情報を得ることができず,群落内部の中・小型種に関する情報は得られなかった.従って,出現する全種名とその被度を記録する従来の植生調査の代替とはなり得なかった.一方で,近年では小型・軽量で高精細画像が得られるカメラが多数市販されるようになり,なかでも全方位動画が得られるVRカメラの小型化や性能向上は目覚ましい.そこで本研究では,UAVの良好な操作性を生かし,UAVから吊り下げたVRカメラを植生群落内に挿入することで群落内部情報を含めた全方位撮影を行い,得られた画像を用いて植生調査を試みた.
釧路湿原におけるFen及びBogを対象とした合計34地点の調査定点を設定し,2m四方のコドラートにて地上での従来の植生調査とUAV空撮画像に基づく植生調査を行い比較した.UAV空撮は,解像度12000×6000の大型カメラを搭載し群落中層まで降下するシステムと,解像度4992×2496の小型カメラを搭載し地表面近くまで降下可能なシステムで行われた.いずれのシステムにおいても,数秒間隔で撮影した静止画からタイムラプスVR動画を作成し,植生調査に用いた.
地上で行った従来の植生調査結果と比較して,画像調査による種の発見率は平均で約60%となった.本講演では,種の発見率、被度の判読誤差、統計的な群落分類の相違について報告する.