| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-243 (Poster presentation)
オオシラタマホシクサEriocaulon sexangulare L. は東南アジアの熱帯から亜熱帯の湿地に生育する多年草である。国内記録は沖縄群島と八重山群島にあるが、現在は西表島のみに生育が確認されている。本研究は現在確認できている二集団おいて、本種が持つ生育特性とニッチを明らかにすることを目的とした。本種の生育地は、島内中流域の増水時に滞水する滝の岩棚および沿岸部に残された湿性環境が保たれた休耕田にあることが観察できた。これらの生育地および周辺の植生よりTwinspan解析を行った結果、岩棚の植生はヤブレガサウラボシ群落とオオシラタマホシクサが生育するヒトモトススキ群落に区分され、休耕田の植生はハイキビ群落とオオシラタマホシクサが生育するタチスズメノヒエ群落に区分された。本種の生育地の土壌は岩棚で砂質土を、休耕田で黒泥土が観察され、土壌水分率は23から54 %であった。光環境(葉面積指数)は0.28から2.04であった。本種の生育が観察されたヒトモトススキ群落とタチスズメノヒエ群落は中間湿原的環境であり、本種の生育が観察されなかった渓流沿い植物が優占するヤブレガサウラボシ群落と低層湿原のハイキビ群落との光環境には有意な差異が認められた。本種が生育可能な水分環境であるヤブレガサウラボシ群落は渓流林縁部にあり、ハイキビ群落はハイキビとチゴザサの繁茂による光環境が本種の生育を抑制していると考えられる。このことから本種の生育は光動態の影響を強く受けていることが明らかとなった。 岩棚における本種の生育地は増水時に滞水する砂の堆積した窪地や甌穴にあり、増水により一部の個体群が消失したことを観察した。しかし、増水による攪乱は渓流辺植生の遷移の進行を抑制し、本種の生育に適したニッチを維持している。これらのニッチにはカヤツリグサ科およびイネ科が優占しており、線形の葉が流水に対する耐性を持ち、不整根は浅い土壌環境を保持し、渓流環境に生育できる特性を持っている。