| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-250 (Poster presentation)
現在、人間の活動によって生物多様性が損なわれる現象が世界各地で起こっている。地球温暖化も多様性減少の一因であり、温暖化がもたらす様々な影響のひとつに湖の生態系の悪化が挙げられる。その例としては湖底貧酸素化に伴う底生生物の個体数の減少がある。一般的に一定以上の水深がある湖は全循環湖と部分循環湖に分類され、後者は湖水の循環が不十分な湖を指す。部分循環湖では底層に十分な酸素が供給されず、本来全循環する湖が部分循環湖に変わると底生生物への影響が懸念される。本研究では、近年、部分循環が初めて観測された琵琶湖を対象とし、この湖の底層に生息するスジエビ (Palaemon paucidens)、イサザ (Gymnogobius isaza) の個体数の変化を環境DNA分析手法を用いて検証した。採水、水質調査は琵琶湖北湖の今津沖周辺で行い、全循環が観測された2016-17年と、部分循環が観測された2019年の夏季、冬季それぞれで実施した。2016-17年については夏季冬季ともに23地点で、2019年については夏季29地点、冬季20地点で行った。これらのサンプルからDNAを抽出し、定量PCRで対象種の環境DNA濃度をそれぞれ定量した。また対象種の環境DNAに影響し得る説明変数を用いた線形混合モデルを作成し、AICに基づくモデル選択を行なった。その結果、2019年冬季のスジエビの環境DNA濃度は2016-17年の冬季に比べて大幅に減少した。また2019年夏季のイサザの環境DNA濃度も2016年夏季に比べて減少が見られた。さらにモデル選択の結果、「年」の説明変数が環境DNA濃度に特に効いていた。以上の結果から、対象種が部分循環による影響を受け、個体数が減少している可能性が示唆された。環境DNA分析手法を用いた解析は、貧酸素下における底生生物の状況を正確にモニターするツールとなりうることが示唆された。