| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-251 (Poster presentation)
ワシントン条約(CITES)は、野生生物の保全を目的として、その国際取引を規制する条約である。アフリカゾウ(象牙や製品を含む)の国際取引のあり方は、条約制定当初から議論の的となっており、CITES下で自国個体群のゾウ・象牙の合法取引の再開を望む国々と、取引禁止の継続を望む国々との間での意見の対立が激しい。本発表では、アフリカゾウの分布・個体数などの情報に基づき、CITES締約国会議(CoP)での審議内容をはじめ、アフリカゾウの取引管理を巡る近年の議論の動向と、その問題点を論じる。現在アフリカゾウの分布域の4割以上、個体数の7割以上が、南部アフリカ地域に集中している。個体数変動は、減少から増加まで、個体群や国によって様々であるが、南部アフリカ4カ国の個体群は、個体数が増加しており、絶滅のおそれがないことから、輸出国の許可で国際取引が可能な「附属書Ⅱ」に掲載されている。しかし、過去2回の例外的な合法取引(1999年、2009年)以外、国際取引は禁止されたままである。これに対し、附属書Ⅱ個体群を有する国々は、2010年以降の全てのCoP(4回)で、自国での自然死や有害個体管理に由来する象牙の取引再開に向けた提案を行ったものの、全て否決された。一方で、直近2回のCoPでは、①全ての個体群の附属書Iへの掲載と②全ての国の国内象牙市場の閉鎖という、象牙取引の全面禁止につながる提案がなされたが、いずれも否決された。自国の野生生物資源の活用が認められない状況に、南部アフリカ諸国は強い不満を表明している。個体群ごとの保全状況、ゾウの密猟に関わる要因や象牙の密輸経路についての分析結果を鑑みない現行の規制は、アフリカゾウの保全に逆効果を招くおそれがある。CITESにおいても、SDGsやCBDなどの、より包括的な枠組みにおける議論もふまえ、各地の社会経済的な文脈と種の生息状況に即した多様なアプローチを通じた保全の達成につながる議論や意思決定がなされることが望まれる。