| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-256 (Poster presentation)
倒流木は主に河畔林から供給される最大の有機物である.倒流木は河川生態系において水生生物の生息場所や隠れ場所等として重要な構造物であるが,日本では土石流等の倒流木による災害が問題視され,防災の観点からの研究がなされてきた.しかしながら,昨今は日本の河川においてもその生態系における重要性が明らかにされてきており,環境保全に繋げる上で倒流木を評価することは重要である.そこで本研究では,主に物理的構造に着目して倒流木が実際に河川にどのような影響を与えているのかを明らかにすることを目的とした.
調査は北海道釧路川上流における3本の倒流木について,ライントランセクト法を用い,物理的環境(流速,水深,底質)および魚類調査を行った.
倒流木付近では流速は緩やかになる傾向が見られ,水深は急に深くなる場合があった.底質は倒流木の上流側に粒状有機物(POM),下流側に砂が多い傾向が認められた.観察された魚類のほとんどが稚魚であり,ウグイが大半を占めていた.また,魚類は倒流木付近の川底近くでよく観察された.魚類の他には,スジエビやウチダザリガニも倒流木付近で観察された.倒流木周辺の流速が緩やかになることから,倒流木が水流を遮って流速に変化をもたらしていると考えられた.また,倒流木付近で水深が急に深くなったことから,倒流木による淵形成が認められた.底質の変化は,倒流木によって粒状有機物が遮られ,緩やかな流速により砂が溜まったことが要因だと考えられた.流速や水深の変化が著しかったのは直径および長さが最大の倒流木であり,倒流木のサイズにより物理的環境の変化に影響が出る可能性が示唆された.魚類は稚魚が多く,倒流木付近の川底近くで見られたことから,倒流木および倒流木によって留められた粒状有機物が隠れ場所として利用されていると考えられ,隠れ場所としての倒流木の重要性が示唆された.