| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-259 (Poster presentation)
東北地方太平洋沿岸域では,複数種の底生動物で地域特有の遺伝子型が報告されており,日本列島での沿岸生物個体群の遺伝構造を考える上で重要な地域と言える.日本列島に生息する代表的な半陸生ガニであるクロベンケイガニ,アカテガニ,アシハラガニは,陸域で生活し,産卵は海域で行うため,個体群維持には陸域と海岸が連続した環境を必要とする.特に,東日本大震災後の復興事業に伴う護岸工事等で陸域と海域が分断されつつある現在,半陸生ガニの集団遺伝構造の解析は喫緊の課題である.そこで本研究では,東北地方太平洋沿岸域を含めた日本列島の半陸生ガニ3種を対象に遺伝的な分集団化や局所集団の孤立の可能性を明らかにすることを目的した.
試料の採集は日本列島沿岸域の46地点で行った.そのうちクロベンケイガニでは18地点168個体,アカテガニでは23地点214個体,アシハラガニでは16地点157個体を用いて,MIG-seq法を用いたゲノムワイドSNP解析を行った.得られたSNPを用いてSTRUCTURE解析と主成分分析により日本列島における各種の集団遺伝構造を解析した.
クロベンケイガニでは得られた1249座のSNPを用いた集団遺伝構造解析により,太平洋沿岸地域の岩手県古川沼から千葉県夷隅川までの5地点の局所集団と,その他の日本列島沿岸域13局所集団とで遺伝的分化が示された.アカテガニおよびアシハラガニでは,それぞれ得られた583座,1025座のSNPより集団遺伝構造解析を行ったが,日本列島内において地理的な遺伝的分化はみられなかった.本研究では,半陸生ガニ3種の中でクロベンケイガニのみが,東北地方から房総半島にかけての太平洋沿岸地域集団と他地域集団とで遺伝子交流の制限が示唆された.このことから東北地方太平洋沿岸域の個体群維持のためには,クロベンケイガニの生息場である陸域と海域の連続性確保が必要である.