| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-266  (Poster presentation)

高等学校の探究学習におけるトラノオスズカケの生育の調査
Survey of the growth of Veronicastrum axillare in inquiry-based learning at high school

*中元崇博(鳥取県立八頭高等学校)
*Takahiro NAKAMOTO(Yazu High School)

 トラノオスズカケVeronicastrum axillare (Siebold et Zucc.) T.Yamaz.は,温暖な地域の森林の内部にみられるオオバコ科クガイソウ属の多年草である。岡山県や愛媛県等の6県のレッドデータブックに記載されており,鳥取県の個体群は国内における分布の北限である。このようにトラノオスズカケは貴重かつ希少であるにも関わらず,野生のトラノオスズカケの生育の状況を記録した研究は存在しない。そこで本研究では,鳥取県八頭郡八頭町において野生のトラノオスズカケの個体のサイズを追跡的に調査し,その生育の状況を明らかにすることを目的とした。
 調査は2020年8月上旬と10月中旬に鳥取県八頭郡八頭町の3か所のトラノオスズカケの個体群を対象に実施した。調査では茎の本数と長さ,葉の枚数と葉身長・葉身幅,花序の個数を測定した。結果の詳細についてはポスターに示す。
 茎については,林縁のやや光の強い環境にある個体群において本数が多く,長いものの割合が多かった。また,8月から10月にかけては成長により茎が伸長したものもあれば,風雨や動物等によるものと推測される影響で茎が欠損したものもあった。葉については,林縁より内部の光の弱い環境にある個体群において葉身長・葉身幅の平均値が最大だった。これは,陰葉でみられるのと同様の適応が起こったものだと考えられる。花序については,林縁より内部の光の弱い環境にある個体群において,その個数が際立って少なかった。光環境の違いがトラノオスズカケの花芽形成に影響する要因の一つである可能性が伺えた。
 本研究は本校の学校設定科目「探究ゼミ」(1単位)の授業の一環として演者と第2学年の生徒5名が行ったものである。現在,高等学校教育においても探究的な学習の充実が求められているが,本研究は生態学分野での探究学習の実践の蓄積にもつながったと考える。


日本生態学会