| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-267  (Poster presentation)

環境核酸分析によるコイの栄養状態の評価
Assessing nutritional status of carp by environmental nucleic acid analysis

*姜明揚(神戸大・院・発達), 山本義彦(大阪環農水研・多様性), 源利文(神戸大・院・発達)
*Mingyang JIANG(Kobe Univ.), Yoshihiko YAMAMOTO(Biodiv. C. Osaka), Toshifumi MINAMOTO(Kobe Univ.)

近年、水生大型生物のバイオモニタリングに広く使用されている環境DNA分析手法が生物の在不在情報や生物量の推定などのメリットがあるため、迅速に発展してきた。しかしながら、環境DNAでは生物の「状態」や「発生段階」を推定することができない。このような問題を解決するために、近年RNAを環境水中から環境RNAとして検出し、生物の状態を環境水試料から調べることができるとする研究が増えてきた。また、水生生物では成長量や健康状態の指標値の一つとして 組織中のRNAとDNAの濃度比が活用されており、栄養状態の良好な個体のRNAとDNAの濃度比は不良な個体より高いことが知られている。しかし、環境RNAと環境DNA濃度比を用いて生物の栄養状態を評価した例はない。本研究の目的は、環境RNAと環境DNAの濃度比を用いたコイの栄養状態の評価である。コイを餌ありと餌なしのふたつの実験区にわけ、3週間の水槽実験による環境DNAマーカーと環境RNAマーカーの濃度を比較し、コイの栄養状態を比較することで検証した。線形モデルによる解析の結果、餌の有無が環境RNAと環境DNAの濃度比に影響を与えることがわかった。時間の推移につれ、環境RNAと環境DNAの濃度比が徐々に低下していったが、餌ありの条件に比べ、餌なしの時によりはやく減少することがわかった。さらに、実験最終日の組織RNAとDNAおよび環境RNAとDNAの濃度比をそれぞれ比較したところ、いずれも餌あり区の濃度比が有意に高く、環境核酸分析によってもコイの栄養状態の評価が可能でることが示唆された。本手法は迅速でかつ非侵襲的であることから、希少種保全や養殖業といった魚類飼育時における栄養状態の評価に用いることで、摂餌による成長率や飢餓による死亡率を改善する鍵となるのではないかと期待される。


日本生態学会