| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-270  (Poster presentation)

農薬施用は水生生物群集の相互作用に影響するか?:非線形時系列解析によるアプローチ
Whether and how do pesticide applications alter biotic interactions in freshwater communities?

*橋本洸哉(国立環境研究所, 近大農学部), 江口優志(近大大学院農学研究科), 早坂大亮(近大農学部)
*Koya HASHIMOTO(NIES, Facul. Agr., KINDAI Univ.), Yuji EGUCHI(Grad. Sch. Agr., KINDAI Univ.), Daisuke HAYASAKA(Facul. Agr., KINDAI Univ.)

農薬などの人工化学物質は、生物の密度に直接作用するだけではなく、捕食-被食関係や競争関係といった、群集内の多様な生物間相互作用を介して群集全体に複雑な波及効果をもたらしうる。相互作用を介した影響を理解する上で見過ごされがちなのが、相互作用の強度(強さと正負)が状況によって変化することである。もし農薬に応答して相互作用強度が変化するなら、農薬が生物群集に与える影響は、農薬曝露前の相互作用の知見だけでは予測できない。しかし従来、農薬に対する相互作用強度の変化の検証は大変困難であり、検証されたとしても少数種・実験室内での研究に限られてきた。そこで、我々は相互作用強度を生物密度時系列データから解析できる手法として近年発展しつつある非線形時系列解析(Empirical Dynamic Modeling: EDM)に着目した。これを農薬(殺虫剤と除草剤)が水生生物群集に与える影響について検証したメソコズム実験のデータ解析に用いることで、(1)農薬に対する水生生物間の相互作用強度の応答と、(2)農薬に対する相互作用の応答と生物の密度変化との関連性を検証した。実験デザインには、殺虫剤と除草剤の散布の有無を組み合わせた2×2要因計画を採用した。実験の結果、トンボ目の昆虫が殺虫剤で、水草が除草剤で顕著に減少するなど、農薬による生物密度の変化が確認された。一方、EDM解析によって、特に殺虫剤処理によって相互作用強度が増大する傾向が見出された。さらに、農薬処理に対する相互作用強度の変化が中程度な時、その相互作用の受け手側の生物密度の変化が小さく抑えられることが示された。この結果は、農薬に対する相互作用強度の応答が大きすぎても小さすぎても、相互作用の受け手となる生物の密度は農薬に対して脆弱になりやすいことを示唆している。


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