| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-274  (Poster presentation)

マレーシア国サラワク州における生物多様性保全のための法的枠組みと国立公園管理
Legal framework and management of national parks for biodiversity conservation in Sarawak, Malaysia

*山下聡(森林総合研究所, 徳島大学), 市岡孝朗(京都大学)
*Satoshi YAMASHITA(FFPRI, Tokushima University), Takao ITIOKA(Kyoto University)

マレーシア国サラワク州は生物多様性のホットスポットとして知られている。多くの生物が生息する原生林は,1900年代初頭には州の全面積の大部分を覆っていたが,現在では,全面積の20%程度を占めるに過ぎない。この減少には,1970年代後半から増え始め,1990年代初頭にピークを迎えた森林伐採や,1990年代後半以降のアブラヤシ園の拡大が影響している。1995年から2000年にかけて,森林管理や生物保全に関するいくつかの法律が制定される一方,それまでの国立公園及び自然保護区法が廃止され,同名の法律が1998年に新たに定められた。また,2004年と2016年には生物多様性令が施行された。こうして1990年代後半以降に整備された生物多様性保全に係る法的枠組の下で,生物多様性保全を目的としたTPA(Totally Protected Area)と総称される国立公園と野生動物サンクチュアリなどが指定され,主にサラワク森林公社がその管理を担っている。サラワク州内の国立公園は,豊かな生物多様性の実地体験を軸とした付加価値の高いエコツーリズムを提供することができる観光資源として期待されている。しかし,多くの国立公園において,生物インベントリー情報を含む,生物多様性に関する基礎的な情報が不足しており,個々の国立公園が持つ魅力が十分に理解されているとはいえず,観光資源として活用されている国立公園はごく一部に限られている。生物多様性に関する基礎的な研究を推進する体制を強化することで,州内の全国立公園における生物多様性の基礎情報を充実させることが可能となり,多数の未知種を含む豊かな生物多様性を擁するサラワク州の国立公園の知的資源としての価値を高め,生物多様性保全に対する取り組みの強化をもたらすことが期待される。


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