| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-275  (Poster presentation)

流域地質が冷水性種のClimate-change refugia形成に果たす役割
Watershed geology shapes climate-change refugia for cold-water fishes in mountain streams

*石山信雄(北海道立総合研究機構), 末吉正尚(土木研究所), Jorge Garcia MOLINOS(Hokkaido Univ.), 鈴木開士(北海道大学), 小泉逸郎(北海道大学), 中村太士(北海道大学)
*Nobuo ISHIYAMA(Hokkaido Res. Org.), Masanao SUEYOSHI(Public Works Res. Inst.), Jorge Garcia MOLINOS(Hokkaido Univ.), Kaiji SUZUKI(Hokkaido Univ.), Itsuro KOIZUMI(Hokkaido Univ.), Futoshi NAKAMURA(Hokkaido Univ.)

Climate-change refugiaは大気候の変化の影響を受けづらい特異な微環境を有するエリアを指し、生息地の気候変動への応答の不均一性を生む一因とされている。こうした生息地は、現在の生息種が気候変動下においても長期的に存続できる可能性が高く、その把握・保全が生態系管理において重要といえる。そこで本研究では、冷水性種が多く生息し温暖化に脆弱と考えらえる森林渓流の保全・管理を目的とし、流域地質がClimate-change refugiaの形成に果たす役割を検証した。北海道および本州の森林渓流において、水温を複数年にわたり連続観測した結果、同標高・気温帯でも、渓流間で水温レジームが大きく異なっており、その違いは気温を含む複数の環境要因の中でも、特に流域地質の違いによって説明された。例えば、北海道・空知川では、火山岩が流域内で優占する渓流はその他の渓流に比べ、夏季平均水温が約3度低かった。こうした冷涼な渓流は年間の流量変動が小さく安定しており、湧水涵養量の違いが地質間の水温差を生んでいると考えられた。また同流域で、冷水性の底生魚類であるハナカジカCottus nozawaeの流域内での分布を夏季に調査した結果、その生息密度は夏季水温に強く影響を受けており、火山岩が優占する冷涼な渓流ほど生息密度が高かった。一般に、湧水環境は外気の影響を受けづらい。そのため、これらの研究結果は、流域内でも湧水涵養量の豊富な特定の地質タイプが温暖化に頑強な森林渓流を形成し、冷水性の河川生物のClimate-change refugiaとして機能し得ることを示唆している。


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