| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-277  (Poster presentation)

長鎖・核DNAおよび海水サンプルを対象とした塩化ベンザルコニウムの環境DNA保存効果 【B】
Performance of benzalkonium chloride as the preservative of environmental DNA targeting longer and nuclear DNA fragments and seawater sample 【B】

*Toshiaki JO(Kobe Univ., JSPS・DC1), Hiroaki MURAKAMI(Kyoto Univ.・MFRS), Reiji MASUDA(Kyoto Univ.・MFRS), Toshifumi MINAMOTO(Kobe Univ.)

水生生物の分布や組成を迅速かつ広範にモニタリングできる環境DNA分析において、水サンプル中の環境DNAの分解をなるべく防ぐことが求められる。塩化ベンザルコニウム溶液 (BAC) は、安価かつ簡易な環境DNA保存試薬として近年用いられているが、淡水サンプル中の短鎖ミトコンドリアDNA断片を対象とした種特異的な検出系でしか、その保存効果は検証されてこなかった。本研究では以下の問いを設定し、BACの環境DNA保存効果をより多角的に検証した。(1) BACは海水サンプル中の長鎖DNAや核DNAの保存にも有効であるか? (2) BACは環境DNAメタバーコーディングに基づく検出種数および種組成の保存にも有効であるか? 初めに、マアジ (Trachurus japonicus) を用いた水槽実験および京都府舞鶴湾での採水を行い、それぞれ異なる断片長の核およびミトコンドリア環境DNA (計4タイプ) の分解プロセスを、BAC処理の有無で比較した。その結果、BACを添加することで、全てのタイプの環境DNAの分解率は大幅に減少しただけでなく、実験開始時点で既に環境DNA濃度はより高くなることが分かった。次に、この野外サンプルを用いて魚類環境DNAメタバーコーディングを行い、群集情報をBAC処理の有無で比較した。その結果、BACを添加することで検出種数は増加するだけでなく、群集組成の経時的な変化 (Jaccard非類似度指数) も減少することが分かった。これらの結果は、BACが、水中の微生物を不活化させて主に細胞内DNAに由来する環境DNAの分解を防ぐこと、そして水中の環境DNAを凝集させてフィルターに捕集されやすくなる可能性を示唆している。本発見は、環境DNA保存試薬としてのBACが、様々な遺伝子領域や断片長に由来する環境DNA、あらゆる水域、そしてメタバーコーディングのような網羅的検出にも高い汎用性を持つことを示した。


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