| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-289 (Poster presentation)
「自分の繁殖成功度を下げて相手の繁殖成功度を上げる行動」を協力行動と定義する。協力行動は自分の繁殖成功度を下げる行動であるから、自然選択の考え方に照らし合わせると、協力行動は時間が経過するにつれて淘汰されることが期待される。その一方で、長い年月が経た現在もなお協力行動は観察される。協力行動はいかに進化しえたのか?これは、進化生物学分野における謎の一つである。協力行動の進化を説明するために提唱されたメカニズムとして、血縁選択(Hamilton, 1964)、互恵性(Trivers, 1971)などがあげられるが、そのうちの一つに「協力者との関係を続ける一方で、非協力者との関係を打ち切る」というメカニズムがある(Zhang et al., 2016)。このように個体が振る舞う場合、協力者は協力者との関係を維持できるのに対して、非協力者は協力者との関係を維持できない。そのため、協力者は非協力者よりも協力されやすい状況が生まれ、結果的に協力は進化しうる。以上では2者間で相互作用する場合を暗に考えてきたが、以下では3者間で相互作用する場合を考えてみよう。3者間で相互作用する場合は、自分以外の個体の数は2個体である。自分以外の2個体が協力者である状況では関係を続けることを希望することが明らかに適応的である。自分以外の2個体が非協力者である状況では関係を打ち切ることを希望することが明らかに適応的である。その一方で、自分以外の2個体の内訳が協力者と非協力者が1個体ずつである、協力者と非協力者が混在する状況では、この2個体との関係を続けることを希望することと打ち切ることを希望することでは、どちらの方が適応的なのかは明らかではない。自分以外の2個体の内訳が協力者と非協力者が1個体ずつである状況は、最良の状況でも最悪の状況でもないからである。私は進化ゲーム理論を用いた数理解析により、どちらの方が適応的なのかという問いに取り組み、その結果、進化条件を明らかにした。