| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-293 (Poster presentation)
人工的に不妊化した害虫(不妊虫)を用いて、野外の害虫(野生虫)の根絶を目指す不妊虫放飼法(SIT)では、不妊オスのみを放飼する場合(不妊オス放飼)と不妊メスも含めて放飼する場合(両性放飼)とで、どちらがより防除効果が高いかがしばしば議論されてきた。本研究では、配偶システムの違いや野生-不妊虫の性的パフォーマンスの差を考慮した数理モデルを用いて、オスのみ放飼と両性放飼の防除効果を比較し、不妊メスの存否がSITの防除効果に与える影響を調べた。オスは一定の確率でメスを発見し(メス発見率)、発見したメスの中から1個体を自身の選好性(メスの性的魅力)に応じて選択して求愛する。メスは自身に求愛してきたオスの中から1個体を自身の選好性(オスの性的魅力)に応じて選択して交尾すると仮定した。その結果、配偶システムがScramble型(メス発見率は低いが、多数回求愛できる)に近い場合、不妊オスの性的パフォーマンス(発見率、性的魅力)が野生オスよりも小さければ、両性放飼が最も有効であった。これは、不妊メスが性的パフォーマンスの高い野生オスの求愛をより多く受けることで、間接的に不妊オスが野生メスと交尾する機会を促進したためである。このとき、両性放飼の防除効果は、不妊オス・不妊メス単独の防除効果の合計を上回った(即ち、不妊雌雄間の正のシナジー)。一方、配偶システムがSwarm型(小数回しか求愛できないが、メス発見率は高い)に近い場合、不妊オスの性的パフォーマンスによらず、常に両性放飼が最も有効であった。これは、不妊メスが野生・不妊オスの求愛を受けることで、野生メスの交尾機会を間接的に奪い、誰とも交尾できない野生メスの割合が増加したためである。このとき、両性放飼の防除効果は不妊オス・不妊メス単独の防除効果の合計を下回った(即ち、負のシナジー)。以上より、配偶システムの違いが、不妊メスの効果に大きく影響しうることが示された。