| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-01 (Poster presentation)
ツバメ Hirundo rusticaの巣は、撤去されない場合には形を保ったまま何年も同じ場所に残り続ける。壁面に付着しているツバメの巣を外すには、3~5kgの力が必要であり、巣は数百gの自重と雛を十分支える強度で接着されている。なお亀岡市内の一つの巣の雛は多い場合で6羽であり(亀岡みらいパースら2016)、巣立ち前の雛の体重は約20gである(金井1960)。
本研究ではツバメの巣の接着強度を上げる物質を明らかにするために、巣を模した人工巣を作成し、木の板に貼りつけた際の強度を測定した。巣材は①水田の土、②水田の土に短く切った藁を混ぜたもの、③水田の土にすりおろした山芋を加えたものとした。ツバメの唾液が巣作りに必要と言われることがあるが、唾液の採取が難しいため山芋を実験に用いた。人工巣を乾燥させた後、板から巣を外すのに必要な力をばねばかりで測定した。その結果、接着力が弱いものから順に、①土<②土+山芋<③土+藁となった。
また巣材自体がどの程度の力に耐えるのかを調べるために、上記①~③の材料を用いて、直径6.5cm、高さ5cmの円柱を作成し圧縮試験を行った。その結果、①土、③土+山芋は、強い力に耐えるが壊れ始めるともろいことが、②土+藁は、①や③に比べると圧縮に耐える力は弱いが、壊れ始めてからも形を維持することが明らかとなった。併せて赤外分光分析によって、①~③の成分を比較したが、①土と③土+藁の間では、追加された藁そのもの以外の成分の違いはなく、藁から接着力を高める特別な成分が出ていることは確認できなかった。また①土と②土+山芋のスペクトルに有意な差はみられなかった。これらの結果から、壁に対するツバメの巣の接着力の向上と巣の形の維持には、藁のような植物が巣材の中に存在する必要があることが明らかとなった。
圧縮強度の測定及び赤外分光分析は、株式会社島津製作所による「課題研究チームの支援」を受けた。