| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-09  (Poster presentation)

フネアマガイの分布域と生態
Distribution and ecology of FUNEAMAGAI

*佐伯峻佑(開智高等学校)
*Shunsuke SAEKI(KAICHI High school)

フネアマガイ(Septaria porcellan)は,殻長約20mmの笠形をした貝である。本種は汽水域の河川の石に着生し,藻類を歯で齧り取って食べる。現在,和歌山県絶滅危惧Ⅱ類種に指定されている。過去に本種の生息が確認された場所は大きく分けて,沖縄・瀬戸内海・和歌山の3地域であり,このうち和歌山県では,広川町唐尾・日高川・南部川・富田川・日置川で確認された。そこで本研究では,「和歌山県内で既に分布が確認されている上記5地点と環境が類似した上記以外の場所にも分布する」という仮説を立て,これを検証した。また,和歌山県レッドデータブックには本種について「冬季の低温時に死滅することがある」という記載があることから,本種は冬季にどの程度減少するかを調査した。調査では,2014~2020年に和歌山県内の23箇所の汽水域において,直径10~20cm程度の石を裏返し,本種を探した。同定は,和歌山県立自然博物館の協力を得ながら正確に行った。結果,過去に分布が報告されている広川町唐尾・南部川・粉白に加え,広川町小浦・那智勝浦町粉白・湯川でも新たに本種の分布を確認した。このことから,本種は従来考えられてきた分布域よりも広く分布すると考えられ,さらなる分布域の調査や分布域拡大の仕組みの解明が今後の課題である。また,5地点において晩秋から冬にかけては本種の幼貝が観察され,一方で,夏には成貝が多く観察された。ただし,唐尾に限り夏に幼貝が観察された。これらのことから,私は本種の生活環について「夏に産卵された本種の卵が秋から冬にかけて幼貝へと発生し,生息に適する環境であった場合は夏にかけて成貝へと成熟,生息に適さない環境であった場合は幼貝のままとなる。」という仮説を考えた。これを検証するためには,本種が耐寒性をもつ仕組みや,どの程度幼貝の状態のまま寒さに耐えられるかの検証が課題である。


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